噂の達人

 平成2年3月12日に発行された社内新聞(研究所の社内報)が見つかりました。 平成2年なので1990年、ちょうど15年前です。 この社内報に私が文章を寄せていたので、それを再録してみます。 文章を読み返すと、いや〜懐かしいですねぇ なんだか言葉が若いです。 たしかこのころちょっと社内的に気持ちがブルーになっていたような記憶があり、それが文章にも表れています。

 噂の達人
 少し前のことですが、TVで「噂の達人」という番組をやっていました。 小堺一機山口美江の司会で、"自称達人"のタレントが自分なりのこだわりの世界を語っていくトーク番組です。 ○○の達人、○○の達人・・と毎週その達人ぶりは様々。 自分の知らない世界で、いろんなことにこだわっている人とはなんと多いものだなと思いました。
 某デザイナーの言葉を借りると、達人とは「ある専門分野について、深い知識と、人並みならない情熱と、将来の方向性について的確なビジョンを持っている人」だそうです。 こう書くと、いかにもその道の"専門家"みたいですが、実は本当にそのことが好きという"ハート"が大切で、「大好きなことをやっていたらいつの間にか達人の世界に入っていた」という感じ、これが大切です。
 一方、達人の世界とはどの様なものでしょうか。 実は達人を極めるのはつらいものです。 いやらしくなく、見栄をはらず、流行り物の後追いではダメ、スケベ心無し・・と、自分を厳しく律する世界だからです。 また、達人の世界とは"自分は自分"の個人の世界です。 ここに日本における達人生活の難しさがあるのです。 "人と同じ"を国是としてきた日本人。 協調性に欠けるといって個性的な人をいじめる傾向、これは会社にもある。 また、理解できないことは排斥する体質。 ルネサンスガリレオのようなものでしょうか。
 ところで、達人は実は自分のことはあまりしゃべりたがらないものです。 なぜなら達人の世界とは、まさにその人のライフスタイルであり、人に語った瞬間、それは見栄に変わる恐れがあるからです。 達人の中で大事にしてきた自分の世界が壊れてしまうような気がするのでしょう。 そこで一つの提案。 会社の中に"あいつ変わってるな〜"って人がいても、個性的に自分のライフスタイルを持っている、自分とは別の世界の達人と見てあげませんか。 いつになくミーハーなことをしていたとしても、それは健全な会社生活を送るために身につけた"作業着"かもしれません。 研究所の中にも噂の達人が大勢いる情報を私は知っていますが、さらにみんなが達人の世界を広げて豊かな生活を送っていただきたく思います。